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最高裁判所第三小法廷 昭和33年(あ)2187号 決定 1961年12月26日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人長谷川勉の上告趣意第一点について。

論旨は、憲法三一条違反を主張するけれども、その実質は、原判決に、刑訴二三九条一項、二六二条一項および弁護士法三一条の各規定に対する解釈の誤があるとの、法令違反の主張に帰するものであって、上告適法の理由に当らない。(弁護士法一条は、弁護士の使命が、基本的人権の擁護並に社会正義の実現にある旨を規定し、同三一条は、弁護士の使命及び職務にかんがみ、その品位を保持し、弁護士の指導、連絡及び監督に関する事務を行うことをも弁護士会の目的とする旨並に弁護士会を法人とする旨を規定して居り、更に同法四二条二項は、弁護士会が弁護士事務その他司法事務に関して官公署に建議し得る旨をも規定して居る。而して告発とは、犯人または告訴権者以外の第三者において、捜査機関に対し、犯罪事実を申告し、犯人の訴追を求める刑事訴訟法上の意思表示である。されば、弁護士会が本件の如き人権侵害による犯罪の成立を信ずるにつき合理的な理由ある場合、弁護士会自身これを告発し、その事件を裁判所の審判に付することを請求することは、弁護士法が弁護士会の目的として必ずしもこれを明示して居らないとしても、前記の如き弁護士会の目的と極めて密接な関係を持つものであって、弁護士会の権能に属するものと解すべきである。したがって、原審が、所論弁護士会自身において、本件を告発し、これを裁判所の審判に付することを請求した措置を適法とした判断は、正当である。)

同第二点について。

論旨は、判例違反をいうが、論旨引用の各判例は、いづれも証拠の証明力を争うために提出された証拠を、犯罪事実の資料に供した場合に関するものであって、本件と事案を異にしているのであるから、所論の判例は本件に適切でなく、上告適法の理由に当らない。

同第三点及び被告人の上告趣意(上申書二通を含む)について。

論旨は、いづれも事実誤認、単なる法令違反の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。(記録によるも、被告人所論の供述調書に任意性を疑うべき資料を認め得ない。)

また記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四一四条、三八六条一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 石坂修一 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 高橋潔 裁判官 五鬼上堅磐)

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